「とりあえず指揮者」へのちょっとしたヒント

どちらかといえば、学生寄りの話です。

 

先日書き殴った通り、私は大学からマンドリンを始め、一般的な大学のマンドリンクラブに所属し、そこで指揮などを経験しました。
高校まで音楽に携わることがほとんどなかったため、音楽的な背景を持たぬまま指揮者になり、当然行き詰まったことばかりでした。
ただ、持ち前の明るさと図々しさで、様々な方からお話を聞いたり、考え方を盗んだりして、なんとか大学4年間でやりたいことができるくらいにはなりました。

 

(以降、関東マンドリン連盟に所属している大学のクラブを「マンドリンクラブ」や「クラブ」と呼称します。そして、私の経験に基づいて書くので、「大学からマンドリンを始めた人が中心」のクラブを想定して書きます。関西の方の事情や、付属高があるようなクラブについてはよくわからないので。)

 

マンドリンクラブの多くは、各学年に1人ないし2人を「指揮者」として決めるかと思います。
幸いなことに、私は自分から希望して指揮者になりましたが、知り合いの指揮者の中にはクラブ内のパートバランスや学年の人数の都合により、という消極的な理由で、仕方なく指揮者に”なってしまった”人もいました。
かくいう私の妻も、人見知りで、人前でトークすることすらままならないのに、最後の定期演奏会まで指揮者をしていました。(私と別の大学です)

 

そういった、「意欲的ではないにしても、指揮者として最低限やれることはやりたい」という消極的な指揮者のうち、少し行き詰まっていたり悩んでいたいりする部分がある方に対し、アドバイスという大層なものまでには至りませんが、課題解決に結びつくヒントになればと思い、あれこれ書かせていただきます。

 

また、書き進めているうちに、単純にマンオケ指揮初心者(経験が浅い方)にも対応できる気がしてきたので、

  • なりたくてなったわけじゃない指揮者
  • 人前で話したりするのが苦手な指揮者
  • 経験が浅い初心者指揮者

といった方々を、総称して「とりあえず指揮者」とし、"とりあえず指揮者"向けにあれこれ書いていきます。
(この呼称、すごい悩んだけどあまり良いのが思い浮かびませんでした。いいアイデアがあれば教えて下さい)

 

さらに、そういった状態にあるマンドリンクラブの奏者側の方や、社会人団体でもひょっとしたら同様の環境下におかれている方もいらっしゃるかもしれませんので、多少幅広めに書こうと思います。

 

 

■何を持って「最低限」か

作曲者やマンドリン道を本気で進んでいる方々には失礼かもわかりませんが、"とりあえず指揮者"な方々にとっては「大きなミスがなく、奏者も納得し、演奏会全体が満足」というところまで出来れば120点なのではないでしょうか。
人前で話すことも恥ずかしかったり、声が小さくなってしまったり、という人が、本番までの数十回の練習で、数時間も人前に立つこと自体が、とてもハードルが高いと思います。

といったところで、今回は「多少のミスはあったかもしれないけど、ある程度弾けて、演奏会も無事終わる」くらいのところを目標に、そこに至るまでのできることや練習の進め方などを書いていきたいです。

 

■楽譜と音源とお友達になる

指揮者としては当たり前かもしれませんが、まず楽譜とお友達になった方が良いです。
お友達と言っても、スコアの隅から隅まで全部覚えろ、ということではなく、以下を囲ったり色付けしたりするだけでもいいと思います。

 

  • メロディー(主旋律)となる部分
  • fやffなど、音量を出して欲しい部分
  • pやppなど、音量を抑えて欲しい部分
  • その他、自分の聞きたい音やフレーズ

 

また、指揮者として慣れないうちは、音源を繰り返し聞くのも効果的だと思います。
楽譜を見ただけでその場面の音が想像ができる、というふうになるまでには時間がかかる(というか私も不得意)ので、繰り返し音源を聞くことで、自分の思う「理想」を心の中で確立しておくのが大事です。
(どの音源を聞くのが良いかは、不安であればその曲を選曲で押したクラブ内の有識者に確認してみるとよいでしょう)

音源を聞くうえで、以下を気をつけながら聞くと、より効果的です。

  • スコアと照らし合わせながら聞く

→特に、各パートごとに注目しながら(例えば1回めは1st、2回めは2ndに注目…といった形で)聞くと、各パートの役割が見えてきます。

  • テンポの変わり目を注意して聞く
  • 急にfになったりpになったりするような聞かせどころを確認しておく


このような感じで、楽譜や音源とお友達になり、自分の中の理想を作っておくと、

  • 合奏練習で、自分の理想と照らし合わせて、「もう少しこうして欲しい」という指示が出せる
  • テンポの変わり目のイメージがしやすい(後述するかも)
  • 奏者からの質問に答えられる確率が上がる

といったメリットが得られます。
そして、何よりこれらは、自分自身が行うこと、1人でできる勉強なので、誰にも迷惑をかけずに行うことができます。

逆に、指揮者として慣れていないうちは、いかに意欲的ではないにしてもこのくらいはしておかないと練習が成り立たなかったりします。
乱暴かもしれませんが、これらのことをこなす自信や意欲が無い方は、"とりあえず指揮者"とはいえ、指揮者を交代してもらうかアンサンブルで演奏することを検討してもいいかもしれません。


■練習の進め方をなんとなく決めておく

私なんかはそうだったのですが、あまり練習の進め方なども教わらずにいきなり奏者の前に立ったので、合奏練習で何をすればいいのかわからず、右往左往した経験があります。
あまりそこまでの人はいないと思いますが、指揮者として慣れないうちは、練習の流れみたいなものは、ある程度決めておいてもいいのかもしれません。

 

※補足

私が合奏練習のときに行う練習の進め方を少し紹介します。

練習番号A-B-C-Dくらいまである曲だとして、

  • 基本的に曲の最初から確認していく
  • A-Bを弾いてもらう→A-Bのフィードバック
  • A-Cを弾いてもらう→B-Cのフィードバック
  • B-Dを弾いてもらう→C-Dのフィードバック
  • C-Dは曲の最後で重要だからもう一回弾いてもらう→C-Dのフィードバック
  • A-D全部通す→全体のフィードバック

といった進め方をすることが多いです。

その他、以下の考え方で練習を進めます。

  • 難しいところは弾く回数を増やす
  • どうしても上手く演奏がまとまらない場合は奏者に原因を聞いてみる
  • パートが欠けていて練習意義が薄いところも、一応やっておく
  • 合奏の雰囲気が悪くなったら、一旦諦めて次の練習番号からor一旦休憩を取る

 

 

■そのフィードバックって何をどうするのか

フィードバックと文字で書くのは簡単ですが、実際にするのは大変に難しいです。
特に最初のうちは、一定のテンポを叩くor振るので精一杯になり、今の合奏がどうだったのかよくわからない、といったことがほとんどだと思います。
"とりあえず指揮者"にとって、「このパートが主旋律なので、他のパートは少し控えめに弾いてもらった方がいいかもしれません」といったことをフィードバックできれば、それですでに100点だと思います。
ただ、なかなかそれすらも気づけなかったり、発言できなかったりすることも多いと思います。

そういった方は、まずは「正直よくわからなかったんですけれども、今の合奏はどうでしたか?」と奏者に確認してもらったり、「あまり聞き取れなかったので、もう一度お願いしていいですか?」とお願いできれば、それでも"とりあえず指揮者"としては100点と考えていいと思います。
ですので、変にごまかそうとはせずに、勇気を持って、自信を持って、素直な気持ちで発言するのが、良いと思います。
(正直な指揮者は信頼される、というのもあります)


■具体的にどうすれば演奏が良くなるのかわからない
これも私が当初感じたことです。
なんか違和感はあるんだけど、何をどうすればよいのかがわからないことが多くありました。
もちろん、様々な要因があり、そう聞こえてるのだと思いますが、こればかりは演奏によって原因があるので、一言で対応をできるものではありません。

または、演奏自体は良くなってきたけど、なにかもう一つ物足りない感じがしたり、といったこともあるかと思います。

これについては、正直なところ、「経験」が物を言います。
こういう時にこうしたら良くなった悪くなった、といった経験の積み重ねで、様々な指揮者としての引き出しが増えていきます。
ので、頑張ってください。


だと、なんとも身も蓋も無いので、次の項で経験について書きますが、
それとは別に、私がよく指摘する事項をまとめました。
すべてが正解というわけではないですので、参考程度で見てください。
("とりあえず指揮者"ではない人は、ちょっと恥ずかしいので読み飛ばしてください)

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演奏が徐々に早くなっている(走っている)際のよくある原因
・リズムを作るパートが我慢できてない
・メロディーが我慢できてない
トレモロからピッキングに変わったフレーズでつい走る
・誰か突っ走っている人がいる
・難しいフレーズで自ら自滅している
これらは気をつけてもらうことで改善が見込めます。

・もう少し早く弾きたい奏者が多く、自然と巻いてしまっている
テンポ設定を再考するか、それでも理想のテンポがある場合は奏者に頑張ってもらいます。

逆にどんどん遅くなる際のよくある原因
・低音パートが重たくなりすぎている
ピッキングからトレモロに変わったフレーズでもたれる
・誰かカメさんしてる人がいる
・周りの音を聞きすぎている
・演奏テンポに無理があり、徐々に奏者の弾きやすいテンポに落ち着いている
これらも走る場合と同様の対応ができます。


なんか聞こえが悪い時
・メロディー以外のパートの音量が大きい
・逆にメロディーが小さい
N会の場合、主張が激しい人が多いので、このパターンが多いです。
他の団体でもこの場合が多いので、メロディーを中心に聞かせてあげるようフォローします。

・写譜ミスの可能性
違和感のあるパートが分かれば、確認してください。

・パートの欠如、上下分けのアンバランスなど
・練習環境によるもの
しゃーないので、次回に期待しましょう

なんか合わないと感じた時
・奏者が満足に弾けてない
・拍を間違えている奏者やパートがいる
・写譜ミスの可能性
少し時間を取って、弾けてない箇所の音取りや譜面の確認などをすると、解決することが多いです。

 

まだいくつかありますが、書くの疲れたので、詳細はまた別の記事で書きます。(TODO)

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■たくさんの指揮者の元で、たくさん吸収する

先に書いたように、どうしても経験値は必要になります。
そこで、個人的におすすめなのは、「様々な指揮者の元で弾くこと」です。

自校のクラブ内の先輩だけではなく、関マン界隈で行われるジョイントコンサート、夏に行われる有志演奏会など、自校以外の指揮者の元でく機会は多々あります。

あくまで奏者として参加するので構いません。
その代わり、指揮者がどういった練習の進め方をするのか、指示を出すのか、振り方をするのかを感じるようにしてください。
余裕があればその指揮者の方とトークできるといいですが、"とりあえず指揮者"の方は、そこまでするのは難しいと思いますので、まずは受動的に参加するのでよいと思います。

 

■振る練習をする その1

(指揮法の話だとかまで踏み込むとどうにもまとまらないので、関マン界隈で一般的な、打点の瞬間に拍を合わせる合奏、を前提に書きます。)

当たり前のようですが、意外と取り組めていないのが振る練習な気がします。
というのも、演奏会に向けての合奏練習が始まった初期の頃に、ドラムスティックや菜箸などでパチパチと机などを「叩く」ことでテンポを提示し、練習を進める方が多いと感じています。
先輩方がそうしていたからそうする、というのはあるかと思いますが、本番は当然、指揮は振るものであり、叩くものではありません。

私も右に倣えで、当初はドラムスティックでバッチンバッチン叩いておりましたが、何年間か指揮をして思ったのは、「叩けば叩くほど自身の指揮の練習が減る」ということでした。
本番でやらないことを練習で行うのはナンセンスと考えます。

じゃあ最初の合奏からいきなり本番仕様で指揮棒を振ればいいのかというと、多分それが本来の正解だと思いますが、大学から音楽をやり始めるような実力の団体だと、目安となるテンポを耳で感じないと形になりません。
ましてや"とりあえず指揮者"の場合、いきなりそこから合奏を作るのは至難の技です。


そこで、これは個人的にですが、「指揮棒で軽く叩きながら振る」という練習をオススメします。
普段の合奏練習の時から、指揮棒を手に持ち、打点を打つ際に机や譜面台などを軽く叩きます。

ここで重要なのが、「合奏練習のときに、自分は指揮の練習をする」という意識です。
机や譜面台を叩くのではなく、指揮棒を振った延長に机や譜面台があるから、打点で音が鳴る、という考え方です。
この意識を持って合奏練習をすると、それだけでだいぶ振り慣れることができると思います。
指揮棒が傷む、とかいう話はありますが、楽器に比べれば安いものです。

それでも"とりあえず指揮者"の方々は難しいかも知れませんが、まずはドラムスティックを指揮棒に持ち替え、指揮棒で練習を進める勇気を持つのがいいと思います。

 

■振る練習をする その2
"とりあえず指揮者"向けに、もう一つ振る練習でオススメの方法があります。
それは「音源に合わせて振る練習」です。

先述の通り、慣れないうちは音源を頼りにしてもよいと書きましたが、合奏練習が本格化してきたら、音源に合わせて指揮を振れるようにしましょう。
できれば、自宅の洗面台など、鏡の前に立ち、自分の姿を確認しながら行うと効果的です。
もしくは、自分の姿を録画したりするのでも良いです。

ここで感じて欲しいのは、「指揮と曲とが一体となる感覚」です。
かっこよく振るとか魅せるとかは関係なく、「こう振ったときにこういう音が鳴る」という感覚を覚えることが重要です。
その感覚があると、実際の合奏で指揮を振る際に、指揮と演奏のリンクを感じ、多くのことに気づくことができるようになります。

ただ、あまり多くは求めずに、まずは振る練習の一つとして、取り組んでみることをオススメします。

 

 

■だいぶ書き疲れたので、まとめ

徐々に技術寄りのこと中心になってしまいましたが、これらをすべてこなせば
「多少のミスはあったかもしれないけど、ある程度弾けて、演奏会も無事終わる」
という最低限の目標は軽くクリアできると思います。

ただ、とある私大マンクラ出身の私が、ごく一部の体験を元に書いたものですので、実際にそううまくいかない部分もあるかと思います。
特に、学校ごとの文化や特色、考え方などはかなり幅があるかと思います。

故に、あくまで「"とりあえず指揮者"が行き詰まったときのヒント」として読んでもらえれば幸いです。

また、消極的な理由で指揮者を据えた団体の奏者の皆様については、任命責任ではないですけれども、指揮者の抱えるものを考慮し、最大限フォローしてあげることが、団体として成長するための一つのプロセスだと思います。


そしてもう一つ大事なのが、自校の練習に積極的に参加することです。
これも当たり前ではありますが、指揮者も奏者も、自校の練習を通してできるようになることが増えていきます。
大学生は学生と言えども、結構繊細だったり忙しかったりするものです。
時期によってはなかなかマンドリンに打ち込む気分じゃないこともあるかと思います。
もちろん、マンドリン活動が学生生活の全てというわけではないですが、興味を持って取り組み始めたマンドリンクラブを趣味の一つとして、続けてもらいたいと個人的には思っております。
"とりあえず指揮者"の中には、しょうがなく指揮を引き受けたけどやっぱりしんどいという方もいらっしゃるかと思います。

でも、常に100点満点の振る舞いが必要なのではなく、自分ができる100%をこなすことが大事です。

指揮をやることで得られることも多くあると思いますので、繰り返しとなりますが、こんな感じで書いた文章が、どなたかの課題解決のヒントになれば幸いです。